ふと周りを見渡すと
わたしの周りには蕎麦職人が案外多い。

三瓶山の湯元で十割そばを打つ女蕎麦職人をはじめ、1日に400食の蕎麦を打つ大社のお膝元にある蕎麦屋の若。
ほかにも、三瓶在来の保存に奔走してきた面々、長年勤めあげたお仕事を卒業し、第二の人生として娘の営むカフェで週一蕎麦を打つナイスガイ。
老若男女、さまざまな個性のお蕎麦が食べたい時に食べに行ける。
こんな素敵なことはない。

かれこれ、大御所たちとの出会いは、20年以上前に遡る。
わたしの蕎麦とのお付き合いをグッと濃くしてくれた、この世で一番美味しいと思う蕎麦を食べさせてくれていた
三瓶蕎麦のリーダーが、今年のさんべ蕎麦まつりを見届けてお空に登って行った。

石橋さんを偲んで、お蕎麦についてあれこれ記してみようと思う。

早いものであっという間に大晦日だ。あぁびっくり。

大晦日といえば年越しそば。
ここ島根県の出雲そばは、日本三大蕎麦のひとつとして、岩手県の「わんこそば」長野県の「戸隠そば」と並び広く知れ渡っている。
島根県では、平安時代ごろから蕎麦の実の栽培が盛んだったという。寒暖差の大きい気候と地質から、やせた土地でも栽培できる蕎麦の実は重宝されていたらしい。
しかし、蕎麦の実の栽培が盛んであったものの、食べ方のメインはそばがきやおやきだったようだ。

江戸時代になって、信州松本城の主だった松平直政が、幕府の命令で島根へとやってくることになり、その際、なんと信州の蕎麦職人を一緒に連れてきたという。お殿様は、きっとよっぽどお蕎麦が大好きだったのに違いない。
こうして信州の蕎麦切という食べ方が松江城下を中心に広まっていくこととなり、今なお私たちはその食文化を受け継いでいる。
さらに1767年に松江藩の藩主となった江戸時代を代表する茶人、松平不昧公（ふまいこう）が茶会席の一品に蕎麦や蕎麦を使った茶菓子を供したり、蕎麦を題材とした俳句を詠んだりして出雲そばは庶民から上流階級の人々にも広く食べられるようになり、食べ方も独自の進化を遂げた。
そのひとつが、島根の郷土食と言えば必ず登場する割子そば。
主に城下町松江を中心に、出雲大社への参拝客・商人・武士のたち向けに提供される「お弁当用の蕎麦」として発達したとの説がある。
三段に重なった赤くて丸い器に入った出雲そば。一段食べたら、残った蕎麦つゆを次の段へ。と食べ進める。そばの薬味も1段目は海苔、2段目は鰹節、3段目は大根おろし、、、きっとそれぞれの流儀はあると思うけれども、つゆにそれぞれの薬味の旨みやら風味やらが溶け込み、3段目を啜る頃には、飽きるどころかさらに蕎麦好きになる、という仕掛け。
な気がする笑

もうひとつは、なんと「釜揚げそば」！！
何を隠そう、釜揚げそばは全国共通だとばかり思って30代後半まで生きておりました、わたし。
「釜揚げそば」のルーツは、出雲大社の参拝客にふるまうために生まれた「屋台用の出雲そば」で、ゆでた蕎麦にとろみのある蕎麦湯とつゆ、薬味をかけて食べる。
数年前に、都会から来た友人が「蕎麦湯に蕎麦が浸かってる」と驚いたので、これって独特な食べ方なんだと知って私もそれはそれは驚いたのを今でも鮮やかに思い出す。

さらに、島根県は出雲そばだけじゃありません。三瓶（さんべ）そばをご存知だろうか？
出雲そばが「挽きぐるみ」といって、玄そば（殻付きのそばの実）をほとんどそのまま製粉するので、色が黒く香りが強い独特な風味と食感が特徴で、いわゆる噛み締める蕎麦。
一方、三瓶そばは蕎麦の実の芯部分を大部分使い、淡い色味と香りの高さ、喉越しの良さが特徴と言われる。もちろん職人によっては挽きぐるみの蕎麦粉を用いるが、私は、三瓶そばの繊細さに魅せられている。
その蕎麦通をも唸らせる味わいは、江戸時代から伝わる三瓶在来種を大切に守ってきた農家と蕎麦店主たちに支えられている。寒暖差が大きい高原気候が風味を育み、明治時代には西日本で唯一、そばの名産地に数えられている。2020年には、地域産品を保護する地理的表示（GI）に登録され、全国的な評価が再び高まりを見せている。薬味として欠かせないワサビも三瓶山の特産品で、山麓に点在する豊富な湧水を使って上質なワサビが栽培されており、三瓶そばとわさび飯のセットは、三瓶に行ったら絶対食べなければならない。と思う。


あぁ、またしてもそばを啜りたくなってきた。
今年の年越しには、皆様も、ぜひとも出雲そばか三瓶そばを召し上がってみては如何でしょう。

ふっふっふ(￣∇￣)
聞こえますとも。あなたの両方食べたいという心の声が（笑）